父が危篤
父が急性心筋梗塞で倒れた。
病院に搬送され十五時間がたつが容態は良くなく、予断を許さない。
父は七十手前であるが、大きな病気もなく、タバコも酒も飲まず、ソフトボールを趣味とするなど健康そのものであった。またいまだに建設現場でバリバリと働いていた。
父にとって私は自慢の息子だったらしい。
大学院を出て研究職に就いた私のことをよく周りに自慢をしていたことを病院にやってきた父の仕事仲間が教えてくれた。
「土地や金のような子供に残せる財産がない。だから子供には学を財産として遺してやりたい」これは高卒の父の言葉である。
父はとにかく人に好かれる。
多少デリカシーに欠けるところもあるのだが、性格に嫌味なところがない。
それは外向けの顔ではなく、むしろその優しは家族に一番向けられていた。
家事以外のあらゆる雑事は父がしていたし、自分のことは後回しに、とにかく家族を最優先にしていた。
父が死ぬなど考えられない。
昨日、私の家の庭の草むしりをするためだけに、わざわざ実家から来てくれたのに、素っ気ない態度を取ってしまった。
私の生活も安定しつつありそろそろ親孝行ができると思いつつも、ほとんど何もしてこなかった。
私に覚悟がないため子供はまだいない。孫を抱かせてやりたかったし、孫とキャッチボールをさせてあげたかった。
父との会話はなんだか気恥ずかしくて、いつも素直に振舞えていなかった。
先ほど、母と妹と話し合った。
もし、延命処置をするか否かの選択肢を迫られたらどうするか。