72時間

父の様態は依然として変わらない.


聞こえているかわからないけれども,

声をかけることしかできない.


2日目の夕方,私自身が泣きじゃくっており気づかなかったが,

家族が言うには,涙らしきものがごく少量見られたらしい.

その話を聞いたとき,救われた気持ちになった.


単なる汗か,生理現象だと思う一方で,

ひょっとしたら僕たちの声が届いていて,

必死に反応してくれようとしたのかもしれない.

その可能性があると思うと,希望が持てた.


その日の晩,一旦自宅に帰ることにした.

妻が運転する車の助手席で,私は泣き叫び続けた.


翌日も仕事を休みをとっていたので,ICUに計3回入り,父に声をかけ続けた.

この日からは,泣きながらではなく,

優しく,明るく,父に頑張れと何度も声をかけた.

父は僕の泣き声を知らないはずだから,いつもの僕の声で.


前日確認し損ねた,涙の跡が確かにあった.

微かにまぶたが開きかけたような気がした.


人工心肺を装着しておくのにも限界があるだろう.

特に腎臓への影響は素人目にも明らかで,手や顔がパンパンに浮腫んでいる.

いつまで今の状態を続けられるのか,お医者様は教えてくれないが,

多分,その日は近いのだろう.